月を追いかけて

第二章 『ラッシュアワーにもまれて』

プシュー。
銀色のドアは開かれた。そしてうんざりした人達は、限られた入り口を求め醜い争いをする。
きっと順番なんて無いんだ、この生存競争の世界では。だから僕ははみ出してしまう。
逃げ出したくなってしまうんだ。この生存競争の世界から。

だけど僕には術が無い。この銀色のミキサー車に乗らなければ、
小さな安らぎすら手に出来ない弱い男。

だから僕は乗り込む、その場所からはみ出さない様に。
押し込まれ、もまれ、かき混ぜられる。 ドアは閉ざされる。
逃げ場はもう無い。 そしてミキサー車は音を立てて走り出す。 僕らをかき混ぜながら。

-ゴトン・ゴトン・グルン・グルン-

言葉はもう意味を持たない。

-スーハー・スーハー・スーハー・スーハー-

行き場所は何処? この世の果て? それとも今日と何一つ変わる事の無い明日?
いつまで繰り返すの? 僕を一体何色にするの? お願い混ぜないで。
お願い塗りつぶさないで。 こんな事を繰り返している、それが僕? それが僕なのか?

不透明なドアのガラス越しに映っている苦しそうな自分。そこに映っているのは誰?
この醜い生存競争の中で、逃げ場すらないラッシュアワーにもまれている僕だと言うのか?
これが僕だと言うのか? ああ息苦しい・・・。