僕らの傷だらけのジッポー

 
- それはガラクタなのかもしれない それは格好悪いことなのかもしれない
   けれど僕らは忘れたくは無いのさ
              いつだってあの頃の自分たちに胸を張っていたいから -


僕は今日、久しぶりに昔の仲間と会った。
「よお。久しぶり」
「おお。久しぶり」
「あれ、どうしちゃったんだよ。その髪型。似合わねえぞ」
「うるせえな。いいだろこの髪型。それよりお前のそのスーツの方が孫にも衣装って感じで似合って無いぞ」
「でもさ。テツなんか、すげえそのダブルのスーツ似合ってるよな」
「おう。おう。似合ってる。似合ってる。なんかこのまま新聞の一面飾れそうだよな」
「なんだよ。久しぶりに会ったのに、俺は相変わらず犯罪者扱いかよ」
「でも本当に久しぶりだな」
「ああ本当に久しぶりだな」

 タケちゃんに慎二にヒロやん、そして徹とテツ。みんなあの頃の様な刺々しい風貌は無かったものの、心や気持ちは何一つ変わってはいなかった。
「なあ久しぶりにみんなで学校に行ってみないか?」
 そう言い出したのは昔、番長格だったタケちゃんだった。
「学校か・・・」
 それは唯一僕らが共有した場所だった。勿論それぞれの心の中には色々な思い出や傷があった。いい思い出もあれば、嫌な思い出もそこにはあった。みんなで最高に盛り上がった文化祭もあれば、分かり合えない学校に対して頭に来て、消火器を教室中にまき散らした事もあった。僕らの中の何人かは無期停学処分を受けた者もいた。だから確かにそこに存在するモノは、僕らにとって全てがいい思い出だった訳では無い。けれどそこにあるそんなモノ全てが僕らが唯一共通する、僕らだけの大切な思い出でもあったんだ。
「行こうぜ学校に」僕は声に出して言った。けれど声を出したのは僕だけじゃなかった。

だって僕らはあの頃の思い出に、いつだって胸を張って居たいのだから。

「行こう、行こう」
「おう。行こうぜ。だって先公にお礼周りしなきゃいけねえしな」
「おいおいテツ行くのはいいけど、この歳で新聞沙汰だけは勘弁してくれよな」
「分かっているって。俺だって一応親だからな。女房とは別れたけど」
「あれ、あの可愛い奥さんと別れたの?」
「まあな。他に男なんか作りやがったから、追い出してやったんだ」
「うそ、うそ。逃げられただけ」
「うるせえな。お前だって婚約者に逃げられたぜねえか」
「ばか、あれは違うんだよ。あれにはもっと深い理由があるんだよ」
「そりゃ俺だって同じだよ。でもこうして今日はみんな集まったんだから、俺とお前の失敗話なんかじゃなくて、思い出話をしようぜ。学校に行って」
お互いあの頃とは違う色々な現実を背負っていた。

 僕らはあの頃良く授業をサボって集まっていた学校の屋上に行って、あの頃と同じ様にタバコに火をつけた。
「なあ、これ覚えて居るか?」そう言ってタケちゃんが差し出したのは、少し錆の入った傷だらけの安っぽい銀のジッポーだった。
 みんな忘れてなんかいない。だってそれは僕らが初めてみんなで一個づつ買った、お揃いのジッポーだったんだから。そして買ったその日から、僕らの友情の印はジッポーをぶつけ合う事だったんだ。だからその傷が多ければ多いほど、僕らの友情が厚いと言う印だった。
「覚えてる、覚えてる」
「懐かしいなあ」
「そう確かヒロやんが一回無くした時、朝までみんなで探し回ったよな」
「そうそうあの時ヒロやん半べそかいてたもんな。俺のジッポーが、俺たちの友情がってな」
「そうだよ、この傷の一つ一つが俺にとってみんなの友情なんだよ。もしこの先このジッポーが例え無くなったとしても、この頃付けた傷の様に俺達の友情は変わらないからな」
「ああ、勿論だよ」
「当たり前じゃん」
「変わらないよ、変わってたまるか」・・・・・。

僕らは変わらない、変わりたく無いモノだってあるんだ。

 僕は今日、昔の仲間に久しぶりに会った。
お互いいろんな現実があるはずなのに、だれもそんな事は口にせずに昔の様に馬鹿な事をやったりしていた。他の人から見れば大した事は無いのかもしれない。けれど僕らにとって、それはすごく楽しくて、すごく暖かかった。
面と向かっては言えないけれど、僕は仲間にありがとうと言いたかった。
そして僕の机の引き出しには、
            あの頃と何一つ変わらない傷だらけのジッポーがあった・・。

- 永遠に変わらないモノ そんなモノがきっと何処かにあるのかもしれないね
                       この広い世界の何処かには・・・ -